蘇葉に含まれる新規抗うつ·抗不安様物質の発見と創薬研究 薬理学的特徴と作用機序の考究

摘要

蘇葉は,現在臨床において,うつ病や不安障害に対する有効性が認められている数種の漢方処方に共通して配合されている要薬の1つである.最近著者らは,蘇葉に含まれるロズマリン酸およびその主要代謝産物カフェー酸が,新規の抗うつ·抗不安様物質であることを明らかにした.本稿では,これら一連の研究成果を概要し,今後の展望も含めて総説する.これまでの一連の行動薬理学的および分析化学的検討の結果, (i)マウス強制水泳試験において抗うつ様効果を示す蘇葉エキスにはロズマリン酸が豊富に含まれている,(ii)ロズマリン酸含量が低い蘇葉エキスでは抗うつ様効果が認められない,(iii)ロズマリン敵およびカフェー酸がともに抗うつ様効果を示す,(iv)両化合物はマウス恐怖条件付けストレス試験において抗不安様効果も示すことを明らかにした.また,神経化学的検討においては,ロズマリン酸およびカフェー酸は,現在臨床で使用されている抗うつ薬の主たる薬理作用であるモノアミン再取込み阻害作用やモノアミン酸化酵秦(MAO)阻害作用を有さないことを明らかにした.さらに最近の研究では,カフェー酸が,アドレナリンα_1受容体を介する脳内情報伝達に影響を及ぼすことで抗うつ·抗不安様効果を発現することや,強制水泳ストレスの負荷により惹起される脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子の転写活性の低下を抑制する作用を有することも明らかにした.以上の知見は,ロズマリン酸およびカフェー酸はともに抗うつおよび抗不安様効果を有するものの,その発現には現在臨床で汎用されている治療薬とは異なった作用機序が関与していることを示唆する.したがって,今後これら両化合物の薬効の特徴や作用機序の詳細を解明することにより,うつ病や不安障害に対する新規治療薬の開発,そしてこれら疾患の病態生理の解明の一助になるものと考える.