急性網膜壊死患者眼内液の多項目迅速ウイルスpolymerase chain reaction（PCR）およびreal－time PCR法によるヘルペスウイルス遺伝子同定

摘要

目的：ヒトヘルペスウイルス（HHV）は現在1～8までの型が知られている．今回，HSVl（単純ヘルペスウイルス1型，HHV1），HSV2（単純ヘルペスウイルス2型，HHV2），VZV（帯状癌疹ウイルス，HHV3）およびそれ以外のHHVが急性網膜壊死の病因に関与しているかを検討する目的で，眼内液のHHVゲノムの同定をpolymerase chain reaction（PCR）検査法にて行った．対象と方法：2001年から2006年までの6年間，当院において急性網膜壊死と診断され凍結保存されていた検体または新鮮検体合計14例14眠からの19検体（硝子体12検体，前房水7検体）についてHHV1～HHV8型の定性PCR法（多項目迅速ウイルスPCR）と，陽性の検体はreal－time PCRを用いてその陽性ウイルスの定量を行った．結果：臨床所見から急性網膜壊死と診断されたすべての症例の眼内液からHSVかVZVのいずれかが同定された．その内訳は，19検体中，VZV，HSV1，HSV2陽性はそれぞれ16例（84％），1例（5％），2例（11％）であった．定量PCRにてウイルスコピー数を確認したところ，いずれもウイルスDNAが高コピー数であった．また硝子体と前房水検体のウイルス量を比較したところ，硝子体検体が有意に高かった．他のヘルペスウイルスでは，Epstein－Barrvirus（EBV，HHV4）の共感染が19検体中9検体（47％）にみられた．眼科疾患との関連性が明らかでないHHV6，7，8についてはいずれも陰性であった．一方，すべての患者の血清中にはこれらのヘルペスウイルスDNAが検出されなかった．結論：従来から言われているようにHHVl～3が急性網膜壊死の病因ウイルスで，病態形成に関与していることが確認された．多項目迅速ウイルスPCR法は同時に多くのウイルスを迅速に同定可能で，real－timePCR法はウイルス量の判定に有用であった．急性網膜壊死のように迅速かつ正確な診断が求められる症例ではこれらのPCR検査は有用であると思われた．