大腸全摘除術，胃全摘除術後に多発性十二指腸腺腫内癌を生じた家族性腺腫性ポリポーシスの1例

摘要

患者は，56歳，男性．1980年直腸癌を併存した家族性腺腫性ポリポーシス（FAP）のため大腸全摘除術を受けた．1984年には胃の多発性ポリープに対して胃全摘除術を受けた．大腸全摘後17年を経て下血を主訴に十二指腸第2部の多発性ポリープが発見された．開腹下にポリープの局所切除術が行われ，腺腫内癌2個と腺腫11個が診断された．本症例は胃全摘除術後に十二指腸が盲端となる再建術が選択されたため，十二指腸の内視鏡検査が行えず，下血を生じるまで十二指腸病変の診断ができなかった．FAPでは長期にわたり十二指腸癌に対する厳重な経過観察が必要であり，腺腫あるいは早期癌に対しては内視鏡的粘膜切除術が有効な治療法である．FAPで胃癌の発生をみた場合には，十二指腸の内視鏡的観察が常時行える術式を選択することが重要と思われた．