β遮断薬により僧帽弁閉鎖不全の軽減を認めた肥大型心筋症の一症例

摘要

肥大型心筋症は圧負荷等では説明し得ない不均一な非対称性の心筋肥大を特徴とする心筋疾患であり，一般に収縮機能は正常に保たれていることが多いが，左室心筋の肥大が進行すると左室コンプライアンスが低下し，拡張機能が低下し，拡張不全による心不全の出現に注意を要する。 肥大型心筋症，特に左室流出路狭窄を伴う閉塞性肥大型心筋症に対してはしばしばβ遮断薬が用いられる。 一方，閉塞性肥大型心筋症は，しばしば僧帽弁閉鎖不全症を合併する。一般に僧帽弁閉鎖不全による急性左心不全または慢性心不全の急性増悪期の治療としては，利尿薬や血管拡張薬，強心薬等が一般に用いられ，陰性変力作用を有するβ遮断薬は禁忌とされる。 したがって，肥大型心筋症に僧帽弁閉鎖不全を合併し，かつ心不全を呈する場合にはその治療薬選択には慎重を要する。 我々は，僧帽弁閉鎖不全を合併し，心不全症状を呈した肥大型心筋症に対し，当初よりβ遮断薬を投与することにより僧帽弁閉鎖不全の軽減および心不全の軽快を認めた一例を経験したので報告する。