認知症の予防?治療技術開発の新しい戦略—天然物を用いたアプローチ—

摘要

最近の厚生労働省の推計によると，本格的な高齢化社会を迎えたわが国の認知症の人数は，2012年の時点で462万人にも達しており，しかも，近いうち認知症になる可能性がある軽度認知障害（mild cognitive impairment; MCI)の高齢者の人数が400万人であると推測されている.したがって，65歳以上の高齢者のうち，認知症の人は15%で，4人に1人が認知症とその予備軍ということになり，今後も急激に増加の一途をたどると予測されている.このように，認知症が極めて深刻な病気にもかかわらず，その予防?治療技術がいまだ開発されていないため，この対策は高齢化が進hだわが国を含め，先進国が解決しなければならない最重要課題となり，日本政府も早急な対策が迫られている.認知症は本人の意思が確認できないこともあり，家族，介護者など周囲の人々を巻き込hでその対応に追われるため，家庭だけではなく医療の現場の重要課題のトップに「人類の最大課題Alzheimer's disease (AD)の進行阻止，改善可能な治療法の開発」が挙げられている.現在，臨床で使用されているAD治療薬は，シナプスにおける神経伝達物質アセチルコリンの濃度を増加させるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(donepezil，galanthamine 及びrivastigmine)及ひ非競合的N-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体拮抗薬memantineの2つに大別される.これらの薬物はAD患者の認知機能障害を一時的に軽減すると言われているが，病気の進行を阻止することはできない.したがって，ADに対する有効な予防?治療法に関する技術は確立されていないため，その開発が待望されている.本稿では，その技術開発を目標とした研究の中で，主として筆者の研究グループ及び共同研究者の研究成果，特に最近のそれについて詳述し，また筆者の研究の戦略及び今後の展望についても多少述べたい.