脂質-基板間距離を制御した支持脂質二重膜の作製と基板表面由来の膜電位制御

摘要

細胞膜はリン脂質を主成分とする脂質二重膜を基本骨格として、細胞内外を隔てるとともに情報伝達や物質の反応場としての役割を担っている。細胞膜が隔てる細胞内外でのイオン濃度差により生じる膜電位は細胞膜反応の主要な駆動力である。人工脂質二重膜系において脂質二重膜に印加される電位の測定と制御は、生体機能の解明および医療分野での応用が期待される技術である。人工脂質二重膜系の一つである支持脂質二重膜（supported lipid bilayer: SLB）は固体基板上に形成される人工脂質二重膜中であり、固体基板表面の構造や物性が、脂質二重膜の脂質分子の膜内拡散やドメイン形成といった分子挙動に影響を与えうることが知られている。SLBの1種である繋ぎ留め型SLB （t-SLB）は脂質二重膜と固体基板間を有機分子や生体分子等のスペーサー分子で繋ぎ留めたSLBである。スペーサー分子により脂質二重膜と固体基板の距離と相互作用を制御できることから、脂質二重膜が受ける影響の度合を制御するための重要な要素技術である。