ジレンマゲームにおける価値観の発生とその解析

摘要

「盗みは最も古くからある労働節約の方策である」ということは非常に良く知られている．しかし，どhなに効率的なことを好む人でも「盗み」を実践することはない．それは「盗み」は社会全体により規制され否定されているからである．人間は自分の利益を優先する利己的生物であるにも関わらず所属する集団や社会構造，文化，道徳などさまざまな外的要因から影響を受けて自分に損益を与えるような行動を決定する．ではなぜ利己的な人間が自分に損益を与えるような価値観を生み出しそれにしたがうのだろうか．本論文では，社会を形成する各個人により集団の価値観がどのような過程で形成され，また形成した価値観が各個人の行動決定にどのような影響を与えるのかに関し，定量的な解析手法を提案する．本論文が提案するモデルは，個体として繰り返し囚人のジレンマ(Iterated Prisoner's DiIemma: IPD)の個体を，集団の価値観としてIPDの利得行列を用い，個体と価値観が共進化を行なう．この共進化モデルを利用し，本論文では，各個体の取る戦略が利得行列の進化にどのような影響を与え，またその進化した利得行列がどのように個体の進化に影響を与えるかについての解析も行なう．以下，2章では個体の進化モデルであるジレンマゲームについて述べ，3章では本論文で提案する価値観（利得行列）と個体の共進化モデルについて述べる．4章では，3章で述べたモデルを用いた実験により価値観の振る舞いと個体の戦略の変化について述べ，最後に5章でまとめをおこなう．