沿岸域における漁業資源生産過程の解明と生態系機能の評価

摘要

藻場，干潟，岩礁，珊瑚礁，河口域など多様な生態系で構 成される沿岸域は，高い生物多様性と生物生産力を発揮す る.それぞれの生態系がうみだす自然の恵み（生態系サー ビス）も豊かであり，その経済価値は陸域を含めた地球上の全生態系のなかで最高と見積もられている（Costanzaet al., 1997; TEEB, 2010). 、しかしその一方で，世界各地で沿 岸生態系の劣化が進行しており，たとえばアマモ場の面積 は全球的に減少を続けている（Wavcottetal.,2009).瀬戸内海におけるアマモ場の面積は，環境省の統計によれば1960年度から1990年度の間に約30%にまで低下した（岡 市ほか，1996).沿岸生態系は多数の漁業資源の生息場と して重要であるため（Fig.1)，これらの開発'消失が漁業 生産に影響を及ぼすことは明白である.しかしながら.各 生態系が漁業資源に与える影響を定量評価した事例は現在 でも少ない.沿岸域を構成する生態系を適切に保全、管理 し，そこに生息する漁業資源の効率的な維持、回復をはか るためには.各生態系における生物生産のプロセスを明ら かにすることが必須である.