害虫の発生要因と予防的害虫管理技術：国内の飼料作物害虫の発生事例から

摘要

応用昆虫学とは「農林業の害虫と衛生害虫を中心に害虫の生理生態，防除法を研究」（田付?河野，2009)する学問であり，その歴史は次々に発生する多様な害虫との闘いの歴史であると言える.そもそも，なぜ新たな農業害虫が次々に発生するのであろうか.この応用昆虫学の根幹とも言うべき問題については古くから研究されており，化学合成農薬の過剰散布による天敵や競合種の減少（Hardin et al.,1995)，他の地域からの害虫の侵入（Kiritani,1998;梅谷，2012),さらには近年の気候変動による害虫の分布地域や個体群動態の変化（桐谷?湯川，2010;積木，2011)などは，害虫の発生の至近要因として一般的に認知されている.ところが，これら害虫の発生要因に関する知見が蓄積されつつある現代においても，新たな害虫は国内だけでも次々に発生している（Table1).これは害虫の発生要因に関する過去の知見が将来の害虫発生の予防に生かしきれていないことを意味する.もちろh，害虫の種類やそれらの作物への加害様式は多様であり，害虫の個体群動態に対しては害虫そのものの生態的特性だけでなく，周辺の生物相や環境条件など，さまざまな要因が複雑に関連しあっている.したがって，すべての害虫の新規発生を予見することは現実的には不可能である.それでもなお，これまで蓄積されてきた害虫の新規発生要因に関する知見を集約?体系化し，新たな害虫の発生を未然に阻止する現実的な理論を確立することは，今後の応用昆虫学における重要な課題のひとつである.