水田地域と畑作地域における農業の多面的機能の差異

摘要

目下のWTO交渉では、アメリカ合衆国をはじめとする農産物輸出国で構成されるケアンズ、グループからの更なる農産物貿易自由化の要求に対して、日本政府は対抗するスタンスをとっている。 そのスタンスの根拠としては、農業の多面的機能（市場を経由しない直接的な外部経済効果）の重視を筆頭に、食糧の安全保障等を併せて挙げている。しかしながら、このような根拠からの農産物輸入拡大に対する日本の消極的対応については、農産物輸出国から殆ど理解が得られておらず、議論は平行線のままといった状況にある。 農産物輸出国にとって日本側提案を受け入れ難いのは、まずは新手の輸入障壁を警戒しているからであろうが、そもそも日本側の主張の根拠を貿易制限のためにとってつけたものとの勘ぐりもあろう。 とはいえ、この状況の背景には、こうした警戒や勘ぐりばかりでなく、おそらくは文化的ギャップとして農業の多面的機能への基本認識についての隔たりが大きいということも根底にあるのではないかと推察される。 特に、アメリカ合衆国やオーストラリアなどの新大陸と日本や韓国などの東アジアとでは農業の自然地理的な立地や歴史的な経過の相違から農業の多面的機能の発現形態やその評価水準に少なからず相違があるはずであり、それらの相違が多面的機能への基本認識の隔たりをもたらしていることが疑われる。