農牧社会の変容とモラルエコノミー: タンザニア.ドドマ地方の事例から

摘要

タンザニァの中央部ドドマ地方は，飢饉発生ラィンといわれる年間平均降水量600mmの境界[12] に位置する半乾燥地域であり，発展途上国タンザニ ァの中でも最も貧しい地域と位置づけられている. この地域の主要民族である農牧民ゴゴは，こうした 厳しい自然環境において，穀物を中心とする天水農 業と牧畜を組み合わせた半定住の農牧生活を営hで きた[5] [6].彼らの生存戦略には，伝統的に予測 困難な飢饉と向き合い[2],リスクを回避するため の独自の能力の発達が織り込まれている.だが，こ うした伝統的な生活は，近年加速する都市化の波と ともに変化を余儀なくされている.その要素として 最も注目されるべきは，現金収入への依存であろう. ゴゴ社会においては，すでに長い間現金獲得活動は その戦略の中に組み込まれていた.混作による多種 多様な作物の一部は日常的に市場で換金されてお り，またすでに英国植民地時代から，頻発する飢饉 に対抗する手段としてキバルァと呼ばれる賃労働.出稼ぎの慣行が観察されている[3].近年，現金獲 得活動が活発化している背景には，日常の必需品の 多様化や，医療，教育などの分野のサービスの発達 により，以前に比べて現金を必要とする機会が一層 増えたことが背景にある.