雌ウマの発情周期中にあけるインヒビンの受動免疫ガ卵胞刺激ホルモン分泌，卵胞発育あよび排卵率に及ぼす影響

摘要

雌馬の発情周期中におけるインヒビンの生理学的役割を，ヤギ抗インヒビン血清による受動免疫中和法を用いて検討した。 はじめに，受動免疫に用いるヤギ抗インヒビン血清のインヒビン活性中和能を，96穴培養ウエル内でのラット下垂体細胞培養系を用いて，培養液中の卵胞刺激ホルモン（FSH）分泌抑制の解除により検討した。 続いて，黄体期にある12頭の雌ウマにプロスタグランジンF2 α（PGF2 α）を筋肉内投与し，その4日後に正常ヤギ血清（コントロール群；n＝4），抗インヒビンヤギ血清100ml（100ml投与群；n＝4）あるいは200ml（200ml投与群；n＝4）を静脈内投与した。 その後の血中ホルモン濃度の変化，発育卵胞数および排卵数を観察した。 その結果，本実験に用いた抗インヒビン血清は，ウマ卵胞液添加による下垂体培養細胞からのFSH分泌抑制を用量依存的に解除することが明らかとなった。 PGF2 α投与後4日のウマに，100mlおよび200mlの抗インヒビン血清を投与すると，血中FSH濃度の上昇が認められ，その後72－120時間まで高値で推移したが，コントロール群では変化は認められず，低値のまま推移した。 実験期間中に観察された2．0cm以上の卵胞数は，100mlおよび200ml投与群では抗インヒビン血清投与量に依存して増加し，排卵数もコントロール群に比べて有意に増加した（p＜0．05）。 いずれのウマにおいても数日間を要する過剰排卵現象が観察され，一般家畜で認められる一過性排卵とは著しく異なっていた。 血中エストラジオール濃度は，発育卵胞数を反映した著しい上昇が認められ，抗インヒビン血清の投与量に依存して上昇した。 一方，黄体形成ホルモン（LH）およびプロジュステロン濃度には，コントロール群と100mlあるいは200ml投与群との間に有意差は認められなかった。 以上の結果より，雌ウマの発情周期中における卵胞発育数調節にはインヒビンのネガティブフィードバックによるFSH分泌抑制機構が重要な役割を演じていることが強く示唆された。 また，現在のところ方法が確立されていないウマの卵胞発育促進または過剰排卵処置として，生体内のインヒビン活性の中和が極めて有用であることが明らかとなった。