牛破傷風の診断と治療の基本原則：20症例からの検討

摘要

破傷風菌は，北里柴三郎がローベルト、コッホの研究室で1889年に初めて純粋培養に成功"した，神経毒 素を産生し感染動物に強直性痙攣を引き起こすクロス トリジゥム属のグラム陽性嫌気性の大桿菌である。 1927年にパスツール研究所のフランス人獣医師，G -ラモンにより破傷風のワクチンが開発され2)，第2次 世界大戦でその抜群の予防効果が証明された。ヒ卜で の治療法が立証されたのは1976年以降で，抗痙攣剤の 投与により全身の筋肉を麻痺させて痙攣を抑え，2-4週間，人工呼吸を行う3)。しかしながら，破傷風は 今日でも治療がきわめて難しいため，予防接種を対象 とすべき疾患であると強調されている。動物において は日本中央競馬会が馬への破傷風のヮクチン接種を 行って，1968年を最後に競走馬は発病していない4)。 本稿では，ワクチン接種が励行されていない牛の破傷 風について，今までの体験を述べたい。なお，本稿は，鹿児島県獣医師会会報(第56号2015 年12月）に口語体で，宮崎県獣医師会だより（第84号 2017年1月）に文語体で投稿したものを，今回修正， 加筆したものである。