乳熱の輸液：低カルシウムの病態生理とCa輸液療法の 用法用量(投与ル-卜)による効果の違い

摘要

乳熱とは乳牛の分娩後において血中の力ルシゥム（以下，Ca)濃度が低下することが原因で，意識低下や骨格筋の弛 緩麻痺などを主徴とする無熱性の起立不能症をいう。その ほかの表現として産褥麻痺（parturient paresis)あるいは 分娩性低Ca血症（parturient hypocalcemia)と呼ばれ，乳 牛の診療に従事する獣医師が遭遇する主要疾患のひとつで ある4'。乳牛は分娩およびその後に開始される泌乳という 劇的な生理的変化が起こるため，Caの動態が変化する。泌 乳に伴い血中のCaが急激に乳中に放出されるため，Caは 腸管からの吸収と.骨から血中へのCa動員が必要となる 力Caの出納が整うまでには分娩後数日を要する。その間 は負のCa状態に陥るが，生理的低Ca状態を超えて病的な 低Ca状態に陥つた場合に.乳熱を発症する（図一1)。