高泌乳牛における繁殖率低下を弓き起こす要因

摘要

我が国の乳用牛における人工授精受胎率は昭和63年頃か ら低下の傾向が見られ，凍結精液が一般的に使用されて以 来，最も低い水準で推移している現状にある。この主な原 因として，乳牛の産乳量が年々増加したことによる繁殖機 能への影響が挙げられている。確かに近年の乳量増加と繁 殖率に関する統計学的な解析によると，それらには負の相 関が見られ，高泌乳化が繁殖率低下に関係していることは 間違いないようである。 しかし，様々な研究成績から乳量の増加そのものと繁殖 率には直接的な関係は明らかにされておらず，乳量の増加 が直接受胎率を低下させているというよりは，「乳量を増 加させるための飼養管理」により人側および牛側の要因が 相まって繁殖率低下を人為的に引き起こしているという表 現の方が適切かもしれない。農林水産省が平成22年7月に 公表した家畜改良増殖目標では，乳用雌牛の能力に関する目標数値として8，000kg/305日の乳量の現状を平成32年度 において8，000-9，000kgとする目標を掲げている。