高張食塩液の誕生秘話と適応症

摘要

一般に温故知新とは，「前に学hだことや昔の事柄を もう一度調べたり考えたりして.新たな道理や知識を 見出し自分のものとすること」である。「温」は尋ね 求める意があり，「ふるきをたずねてあたらしきをしる」と訓読する。高張食塩液は20年前に発売された比 較的新しい輸液剤ではある力《.20年前の「ふるきをた ずねて」みょう。まず，日本全薬工業,の動物用輸液剤の歴史を紹介 したい。1962年に最初に動物用補液剤として開発され たのが乳酸加リンゲル液である「ハルゼン-V注射 液丄乳酸加リンゲル液に5 %ブドウ糖を加えた「ハル 糖-V注射液」およびリンゲル液に5 %ブドウ糖をカロ えた「リンゲル糖-V注射液丄ビタミンB1加リンゲ ル液および5 %, 25%, 40%, 50%ビタミンB1加ブ ドウ糖液であった。翌1963年には25 %ボログルコン 酸カルシウムに25%ブドウ糖を配合した「ポロカー ル」が発売され，1971年には5%.10%, 25%キシ リット液，1975年には「動物用生食V注射液丄そし て1986年は7%炭酸水素ナトリウム製剤である「重 曹注」が誕生した。平成に入ってからは1994年に低張 電解質液である「等張リンゲル糖-V注射液」が生ま れ，「高張食塩V注射液」すなわち高張食塩液が誕生したのは1998年であった。同じ年には，ブドウ糖を配合 しないカルシウム剤である「ニューボロカールA丄 1999年には低張電解質液である「等張ハルゼン糖-V 注射液」が生まれた。2002年に1.4%重炭酸ナトリゥ ム液である「等張重曹注」が上市され.近年では酢酸 リンゲル液である「酢酸リンゲル-V注射液」が 2009年に発売されており，現在に至っている（表1)。 高張食塩液が誕生して20年が経過したが，1998年の 発売以降は順調に販売数が増加して年間約15-20万 tを販売し，2018年半期までの総量は3144.91となつ た（図1)。これは25mプールの約5.8杯分となる。成 牛1頭当たり3 Lを投与するとして，年間延べ5-6.7 万頭に投与されている計算になる。