＜疾病予防その1＞: 黒毛和種子牛への初乳給与

摘要

子牛の下痢症と呼吸器病は発生率と死亡率が高く，畜産農家にとって経済的損失が大きい疾病である。 これらは病原微生物，飼養環境，子牛の免疫や栄養状態など多くの要因が関与して発生する複合的な疾病であり（図1），病原微生物の診断法や衛生管理技術が向上しているにも関わらず，その発生は減少せず，米国では子牛下痢症による年間の損害額は1億2，000万ドル，呼吸器病は10億ドルに達すると試算されている2）。 子牛下痢症の発生は生後1カ月以内が多く，この時期の子牛は反袈獣としての消化吸収機能が未熟であるだけでなく，免疫機能においても能動的な免疫応答が弱いため，疾病に対する抵抗力が低く，下痢を発症しやすいと考えられている。 新生子牛は免疫グロブリン（抗体）を保有しない状態で生まれ，初乳摂取により抗体を獲得する。 初乳中の免疫グロブリンG1（IgG1）は子牛の腸管から吸収され血中へ移行し，感染防御抗体として働く。 また，血中へ移行した抗体は再び腸管へ分泌され，腸管から吸収されなかった乳汁中の抗体は腸管を洗い流すことにより腸管局所の感染防御に作用する1）。 適切な初乳給与は，病原微生物に対して無防備別犬態で生まれた子牛に抵抗力を付与し，受動免疫として子牛の疾病予防に重要である。