家畜生体の輸入リスクとリスクコミュニケーションについて

摘要

動物検疫所は，畜産業の振興と公衆衛生の向上を目的として.海外から家畜の伝染病の侵入を防止するため，輸入検疫を行っている.家畜生体は水際から国内防疫まで，大きく 3段階のリスク低減措置を実施して国内に輸入され る.まず1段階目は，日本国政府との間で取り決めた家畜衛生条件に基づく検査や隔離観察を輸出国で実施し，リス クの低減された家畜を選抜して送致すること.次に水際でのリスク低減措置として，動物検疫所の係留施設で一定期 間係留検査を実施し，臨床検査，精密検査などを実施すること.これに合格すると輸入が許可され，国内家畜の扱い となる力5'.さらにもう1段階，国内でのリスク低減措置として，都道府県の指導のもとで3か月間の着地検査を実施 することで.海外からの伝染病侵入を防止している.水際対策となる動物検疫所での検査実施項目については，相手 国の疾病発生状況や疾病の特性などを考慮して選別している力;'，近年，動物検疫所では国際獣疫事務局（OIE)が推 奨する手法に基づき実施している輸入リスク評価に基づく検査対象疾病の選別手順を明示するとともに，検査結果を 共有することで.国内防疫を担う都道府県との連携強化を図っている.輸入リスク評価は，当該疾病が輸出入検疫を 潜り抜けて国内に持ち込まれる「侵入リスク」，輸入後に国内の家畜へ疾病が暴露される「暴露リスク」，国内農場へ の疾病の定着の有無や疾病がもたらす被害といった「影響リスク」の3つで構成されている.そして，その評価結果 に基づきリスク管理措置を決定し，リスクが適正に低減されるよう管理していくこと力， OIEのリスク分析の枠組み とされており，評価，管理の各過程において開係機関とのリスクコミュニケーションを行い，相互の理解を促すこと となっている.