培養槽の形式と培地のNAA濃度がベラドンナ不定根の生育とトロパンアルカロイドの生産に及ぼす影響

摘要

ベラドンナ（Atropa belladonna）は欧州原産のナス科植物であり，同じくナス科植物のズポイシア（Duboisia myopoloides），グッラ（Datura stramonium），ヒヨス（Hyoscyamus niger）などと共に二次代謝物質として鎮痛，鎮痙剤として利用されるヒヨスチアミンやスコポラミンなどのトロパンアルカロイドを生産する．これらの植物からヒヨステアミンやスコポラミンを工業的に生産する手段として，組織培養の利用が検討された結果，カルスでは生産仲が著しく低下するので，効率的な生産には分化させることが重要であることが明らかにされている．分化組織としては，特に，不定根あるいは毛状根が有用である．しかし，不定根あるいは毛状根を大量培養すると，集塊を形成したり，培養槽の大型化に伴う培地の流動速度の増加によって強い勢断を受けるなどの問題がある．その結果，生育や二次代謝が低下してしまうため，スケールアップが容易ではない．例えば，McKelveyら（1993）によると，ヒヨス毛状根を通気型培養槽で培養した結果，フラスコを用いた振とう培養と比較して生育量が低下し，31％に過ぎなかった．スパージャー（空気分散器）からの通気のみによって培養する通気型培養槽で生育した根は，集塊を形成し，集塊の内部への酸素や養分の供給が阻害されるために枯死し，しかも10 l以上の培養が非常に難しい欠点がある．