生殖的隔離と適応分化のはぎまで

摘要

「育種学にどうして進化的研究が必要なのか？ 」としばしば問われ戸惑うことがある．生物進化が実際にどのように起こるかを見ることはできないが，多様な生物が異なる環境にうまく調和してより多くの子孫を生み出すように生存する姿を知ることは可能である．相対的な個体の適合度により遺伝子の頻度が変化することが適応分化である．自然淘汰に基づくこの過程は，種多様性を生み出す基本原理と考えられる．進化研究において，高次の分類群の進化動態を捉えようとする大進化の研究と，新しい種や個々の分集団が異なる環境に適応していく動態を捉えようとする小進化の研究とは分けて議論されることが多い．なお，大進化と小進化が進化的時間の違いだけで説明できるかほよく分っていない．育種は作物の小進化を人為的に促進させることと捉えられる．栽培植物は，有史以前より，様々な地方品種が異なる地域の環境や人間の価値に適合するものとして生み出され続けてきた．メンデルの遺伝の法則が再発見された後，育種学は，単に種を増殖し食糧生産に利用する技術ではなく，予測可能な遺伝的変異のダイナミズムを理解して作物の改良を促進し社会に貢献する学問として生まれ変わった（明峰1912）．