骨から辿る日本人の身体の変化

摘要

人類が数百万年に及ぶ進化の過程で大きく姿形を変化させてきたのは周知の事実だが，その最終段階の現代人に至る数千年間，いや数百年や数十年単位で見た場合ですら，程度こそ違えかなり激しい変化を遂げてきたことがこれまでの人類学的な諸研究によって明らかにされている。 アジア東端の海上に小さな弧を措いて連なる日本列島は，そうした人体形質の時代変化に関する情報が特に充実した，世界的にもまれな地域の一つである。 大陸と指呼の距離にありながら一応は独立した島国としてこの一万年余りを生きてきた日本列島の地理的，歴史的な背景や，豊富な発掘事例，それに対する国民の関心の強さなどさまざまな要素が絡み合ってそうした研究を可能にし，後押ししてきたのだろう。 しかし，遺跡から出土した人骨によって古代人の姿形，その変化の様相は知り得ても，なぜ，どのような要因で変化が起きたのかということについては必ずしも意見が一致しているわけではない。 また，同じ日本人でも，亜寒帯から亜熱帯地域まで多様な環境下に住む列島各地の人々にはかなりの地域差が見られ，当然，その歴史にも違いがあるはずである。 ここでは比較的資料の揃った本州域に地域を限定し，弥生時代から近世に至る時期に起きた骨格の変化と，それにまつわる議論の一端を紹介してみたい。