細胞内カルシウム動態のかく乱を特徴とする殺虫作用機構の研究

摘要

細胞が発現する多くの機能は細胞内Ca~(2＋)により調節され，これを可能とするため，定常状態の細胞内Ca~(2＋)を低濃度に保つ仕組みが存在する．Ca~(2＋)の恒常性を維持するこの仕組みは，Ca~(2＋)を選択的に透過するCa~(2＋)チャネルやCa~(2＋)を輸送するCa~(2＋)ポンプなど，多様な制御因子により支えられ，これら因子が機能的に連関することにより達成される．こうした，生理的な重要性から細胞内Ca~(2＋)動態をかく乱する化合物が農薬，特に殺虫剤となる可能性は既に複数の研究者により指摘されてきたが，リアノジンを含有する豆科植物根抽出物が農薬として利用された例（Ryania，1997年EPA登録失効）を除けば，今日までその具体例はなかった．フルベンジアミド（Fig．1）は日本農薬㈱により独自に創出され，鱗翅目昆虫に対して高い防除活性を有する新規殺虫化合物である．本研究の結果，フルベンジアミドは小胞体膜上に存在する細胞内Ca~(2＋)制御因子であるリアノジン受容体（リアノジン感受性Ca~(2＋)放出チャネル，RyR）を特異的に活性化することにより殺虫効果を発現することが明らかとなった．以下，フルベンジアミドの作用機構を例にCa~(2＋)動態のかく乱による殺虫作用につし「て概説する．