嗅覚イメージ鮮明度質問紙(VOIQ)日本語版を用いた近年の研究展望

摘要

心的イメージ(mental imagery)とは，今，目の前にはいない人やないものの姿·形を心の中に思い浮かベる心的過程を示す。イメージは，われわれの意識経験の基本要素であり，架空の出来事や過去に経験された出来事を再体験する際には極めて重要な役割を果たしている。イメージ体験は個人的なものであり，様々な側面において個人差があると考えられている。従来の研究では，イメージの個人差の一つとして鮮明度について検討し，これをイメージ能力として扱ったものが挙げられる。ィメージ能力の典型的な測定法は質問紙によるものであり，たとえば視覚イメージ能力の測定に特化した質問紙としてMarksによる WIQ (Vividness of"Visual Imagery Questionnaire)がある。そして，VVIQに基づいて Gilbert,Crouch,& Kempが開発した嗅覚ィメージ能力に関する質問紙が VOIQ (Vividness of Odor Imagery Questionnaire)である。嗅覚イメージはその生成が困難である場合が多く，存在自体が疑問視されてきたものの，近年の研究から嗅覚イメージの存在を想定しないと解釈でき ない知見が報告され，その重要性が再確認されている。本稿では，まずVOIQ日本語版について解説し，次にこれを用いた近年の研究として，加齢，嗅覚同定能力，記憶，専門家との比較に関する知見を概説する。