難聴は高齢者の健康問題のうち最も頻度の多いものの一つで,特に近年は中年期以降の難聴が認知症のリスク要因として挙げられるなど,関心が高まっている.本稿では,高齢者の難聴の特徴と補聴器について概説する.1.高齢者難聴の特徴:加齢現象としての聴力変化は30歳を過ぎるころから始まっていて,必ずしも高齢期に始まるものではない.加齢に伴う変化は,外耳,中耳から内耳,中枢に至る聴覚路全てに生じる可能性があるが,外耳,中耳の加齢変化が聴力に及ぼす影響は,内耳の加齢変化に比べればわずかである.加齢性難聴は一般に両側対称性の感音性難聴で,低周波数領域の聴力は比較的保たれ,高周波数領域優位の低下を示す,高音漸傾型を特徴としている.また女性より男性の方が,聴力が悪い傾向があり,個人差が大きいのも特徴である.筆者らが『国立長寿医療研究センター?老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences - Longitudinal Study of Aging: NILS-LSA)』にて地域在住者を対象に行った調査では,500,1,000,2,000,4,000 Hzの4周波数平均気導聴カレベルを基準とした良聴耳聴カレベルが40dBを超え,一般に補聴器の適応と考えられる難聴者は,70歳代では男性で5?6人に1人,女性で10人に1人程度で,80歳以上では男性の2人に1人,女性の3人に1人存在することが分かっている1.表1に,世界保健機関World Health Organization (WHO)のグレード分類による聴力障害の重症度と状況や助言内容を示す.40dBを超えると,話者の声質や大きさ次第では,日常生活で不便が出始める.
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