極細バイス線材の微細組織と機械的特性

摘要

ハイスの母相中には多数の炭化物が析出している．炭化物の種類，形状，大きさ，分布状態などが工具の性能に大きく影響するため，ハイスの炭化物に関する研究は多数行われている，例えば，常陸らは最大炭化物粒子径と母相の平均結晶粒径には一定の関係があること，硬さは一次炭化物の大きさに比例すること，耐摩耗性は炭化物の大きさに依存することなどを明らかにしている．他にも，西田らは熱処理を行うことにより，母相への炭素固溶量が変化することで炭化物含有量が変化し，母相の結晶粒径の増大にともない炭化物の含有率が低下すること，また，引張強度は炭化物粒子径が小さいほど高くなることなどを明らかにしている．これらのことから，極細ハイス線材についても，炭化物の含有率，炭化物粒子径が機械的性質に大きな影響を及ぼすことは推測できるが，製品となる線径まで，線引加工と焼きなましとを繰り返して行なうことにより，線材の組織がどのような影響を受けるか，機械的特性にどのような変化が起こるかということについて検討した例はない．本研究では，極細ハイス線材の線引加工の過程における微細組織変化と機械的特性との関係について，炭化物の含有率や炭化物粒子径などの組織学的観点から詳細な検討を行った．