心肥大,心不全におけるHB-EGFの役割 増殖因子による心不全治療の可能性を探る

摘要

高齢化社会の進行に伴い,わが国の心不全患者数は上昇の一途をたどっている.心移植や人工心臓の導入など,外科的な治療法はこれら高齢者には導入が困難であり,あらたな心不全の内科的治療法が待たれている.今回,著者は従来の治療法とはまったく異なる作用機序をもつ増殖因子の心不全治療の可能性について総説する.増殖因子は本来細胞膜上の受容体に結合し,細胞の増殖をきたす生理活性物質であるが,増殖しない心筋細胞や神経細胞でもその機能維持に重要な役割を担うことが示唆されている.今回注目したのは,増殖因子のなかでもHB-EGFとよばれる生理活性蛋白であり,心臓におけるその特異的役割が明らかになりつつある.著者らは培養心筋細胞や遺伝子改変マウスを使用した研究から, HB-EGFが心臟において高濃度で発現しており,心肥大のシグナルに関与するとともに心筋代謝において重要な役割を担うことを証明した.これらの研究を踏まえ,HB-EGFの心筋保護作用に注目し,あらたな心不全治療の標的となりうるかを検討した.