現代的なうつ病

摘要

うつ病の現代的な変質を理解するためには，ますはうつ病のプロ卜夕イブともいうべき従来型の中核的うつ病の特徴を押さえておく必要がある.中核的うつ病における代表的な症状は，生気的悲哀感，②生気的制止である.「生気的」という言葉は精神だけでなく身体も含意し，うつ病とは本来，身体をも巻き込hだ症状により特徴づけられる生理学的病態のことを指す.病前性格における特徴的要素はある種の「強迫性」であり，うつ病の発病過程は，「内なる強迫性による自己瓦解」のプロセスといえるものである.それは，現代的な病像を示す一部のうつ病患者にも共通する心理的傾向であるが，現代においては強迫性のあり方（とくに職場との関係において）に変化が生じており，そのことが病像変化につながっている.しかし，そのような群では，症候学的にも病前の存在様式の点でも中核的うつ病と連続性を有するため，治療上も中核的うつ病における方法論をかなり援用できる.-方では，社会的規範意識や強迫性が希薄なうつ病およびうつ病類似病態も存在する.それらの類型では，症状面でも病前の存在様式の点でも中核的うつ病とは異なる部分が多く，その相違は治療方針にも反映されている.したがって，中核的うつ病とは異なる位置づけが与えられることになる.