南極氷に閉じ込められた太古の空気の非破壊三次元可視化技術：位相コントラストX線CT法によるエアハイドレートの観察

摘要

南·北極域では雪は溶けずに堆積し氷床氷へと変化する。降雪時の大気は、降り積もった積雪層の重さによる圧密によって、氷の中に気泡として取り込まれていく。 南極のドームふじコアより掘削された全長3,000m以上の氷床氷中の最深部では、70万年以上前の大気が保存されており、気泡中の空気はおよそ50気圧を越える深さに達すると、氷と反応しエアハイドレート結晶へと徐々に変化する（第1図）。このため、エアハイドレートは、1982年に極域氷中でのその存在が報告されて以来、地球が経験した気候·環境変動を読み取る指標の1つとして注目されてきた。 しかしながら、エアハイドレート結晶粒子とまわりの氷は共に水分子によって形成され、かつそれらの密度差は非常に小さいため、非破壊検査に用いられる従来のレントゲン写真やX線CT法、さらにはMRI法ではエアハイドレートと氷との識別が出来なかった。 このため、エアハイドレートの形成メカニズムの理解に重要と考えられる三次元分布や、エアハイドレート中のガス組成の理解に重要と考えられる個々のエアハイドレートの密度変化測定は容易ではなかった。 本稿では、エアハイドレートと位相コントラストX線CT法を用いたその非破壊三次元可視化技術に関してその概要を解説する。