両耳分離音を用いたピッチ知覚における左右耳の優位性に関する考察

摘要

聴覚や視覚のような一対の受容器を有する感覚器官において，左右の感覚器の能力が完全に対称であることはなく，一方が他方より何らかの点で優位性をもつのが普通である．聴覚においては，これを優位耳と呼んでいる．優位耳に関する研究としては，Yund等(1977-1979)の純音よりなるDichotic Chordを用いた聴取実験があり，Yundは，純音を用いたピッチ判定において優位耳が存在することを報告している．またDeutsch等(1979)は，同種の実験において，一方の耳への提示音のピッチ変化は追随され，他方の耳へ提示音のそれは抑制されるとしており，これらの優位耳は，実験のシーケンスに依存しているとの研究結果を報告している．本論文では，純音の代りに2つの狭帯域雑音を用い，ピッチ判定における優位耳について検討した．その結果，中心周波数を固定し，一定幅の狭帯域雑音の，高域側と低域側の分離幅を増加させると，優位耳の強さ（優位性）が低下すること，同様に中心周波数を固定し，一定の分離幅で，狭帯域雑音の帯域幅を増加させると，同様に優位耳の強さが低下することを確認した．また，秋田高専の学校祭を訪れた一般入場者の優位耳の測定結果では，左優位耳をもつ人の割合が71％，右優位耳をもつ人の割合が17％で，残り12％の人は優位耳を示さなかった．