階層構造意味空間モデルにおけるアブダクティブ推論

摘要

本論文では，自然言語による質問応答システムの構築手法としての「階層構造意味空間モデル」における使用を前提としたabduction（仮説演繹的推論）の手法について提案する．自然言語処理システムにおいては，入力された自然文を，何らかの方法で「意味」を取り扱うことが可能なメタ形式に変換したのち，それらのデータを用いて推論を行うことが必要とされる．推論システムや推論エンジンに関しての研究は多く行われてきたが，なかでも特に重要なのはabductionであるということができる．なぜなら，知的情報処理を行ううえで，abductionは，帰納的推論においても，また，創発的論理の生成においても，それらの過程において中心的な役割を担っていると考えられるからである．abductionの手順は，1980年代における帰納論理プログラミング（ILP）の研究文脈において，多くが提案されてきたが，近年においては，さらに帰納論理の枠内にとどまらず，創発や発見の論理，もしくは隠喩理解の基礎理論として着目されつつある．ただし，創発や科学的発見を生成しうるアブダクティブ推論の機序に関しての研究および検討は，特に，日本語処理を前提とする場合充分であるとは言えない．そのため，本研究においては，日本語自然文における会話システムの構築を前提とし，そのために利用可能なアブダクティブ推論の手法を提案する．本提案手法に基づいて実装された日本語会話システムのアルゴリズムを説明しつつ，その問題点についても併せて検討する．