Al-Mg-Si合金の多段時効における時効硬化挙動に及ぼす自然時効の影響

摘要

近年，自動車の軽量化による燃費向上の目的で自動車ボディパネルにAI-Mg-Si系合金が多く用いられている。Al-Mg-Si系合金は，成形性,耐食性,表面外観品質に優れ，さらに443～458Kで処理される塗装焼付け時の時効硬化性（ベークハード性，以下BH性）を持つことから，このボディパネル用途に特に適している。一方　Al-Mg－Si系合金では時効処理前に室温で保管した場合に，顕著にBH性が低下する「二段時効の負の効果」を生じることがよく知られている。これは，自然時効中に溶質原子クラスタ（または析出物の前駆構造）が形成され，これが最終時効時のβ”相の析出に影響を及ぼすためであると考えられている。Yamadaら射は比熱測定の結果から，343K以下と343Kを超える温度では，2つの異なるクラスタが形成されることを報告している。またSerizawaらは三次元アトムプローブ法（3DAP）を用いて，これら2つのクラスタの特徴を明らかにしている。すなわち，室温で形成されるCluster（1）はBH温度でも変化しないのに対し，373Kで形成されるCluster（2）はβ”相の形成を促進する。