タンパク質の特異的ラベリングと検出

摘要

生体内には膨大な種類の分子が存在し，それらが巧みに制御された相互作用を繰り返すことで，複雑な情報伝達機構のコントロールや驚異的な生体機能の発現が達成されている。 その中で興味ある現象のみを抽出するのは容易ではないが，実現すれば生命現象の謎解きや応用に大きく貢献するはずである。 これにはいくつかのアプローチが考えられるが，対象分子のみを蛍光などで標識できれば検出が簡便になり，解析が飛躍的に進む。 生体内分子の第一のキープレイヤーであるタンパク質を蛍光ラベルする方法として，遺伝子組換え技術による蛍光タンパク質との融合や，遺伝暗号そのものを組み換えて非天然アミノ酸を導入する方法などが開発されてきた。 特に前者は汎用ざれ，さまざまな生命現象の解明に大いに貢献してきた。 一方で，有機化学的なアプローチによるタンパク質の特異的ラベリングは，蛍光以外にもさまざまな機能性分子を目的に応じて導入できる点でも前述した方法とは一線を画し，近年大いに注目を集め始めている。 この場合，タンパク質が安定に存在しうる水中·穏和な条件で利用できる反応であることが前提条件となる。さらに細胞などに適用する場合，爽雑系でも目的の反応のみを達成する精密さも必要となるが，これらは甚だ困難な課題である。 本稿ではこのような難題の解決をめざして，タンパク質の「有機化学的なアプローチによる特異的ラベリング」とその応用展開について，代表的な研究例を紹介する。