タンパク質間相互作用とシグナル伝達解析

摘要

生体内では，2つもしくは複数のタンパク質が互いに相互作用し，非常に複雑なネットワークを構成している。 この緻密に制御ざれたタンパク質問相互作用は，ほとんどすべての生命現象の根幹をなしている。たとえば，細胞膜に存在する受容体が外部からの刺激を認識すると，その刺激を生体内シグナルに変換して順次増幅しながら次々と伝達し，最終的には遺伝子発現，細胞増殖·分化，あるいは細胞死などの応答が引き起こされる。このシグナル伝達は，刺激に対する動的で非線形な応答という系の複雑性に加えて検出技術の感度などの要因が絡み合い，その解析は困難を極めている。 しかし近年，新しい解析手法が報告されるにつれ，細胞内のどこで，どのタンパク質が，どれぐらいの時間·強ざで相互作用しているのかなどの基本的な情報が少しずつわかってきた。それに伴い，この緻密に制御されたシグナル伝達の異常は，ざまざまな疾病と直接関係していることが判明してきている。 これらに関する研究は生命現象の理解，各種疾病の原因を明らかにするとともに，創薬分野などにおける社会貢献も期待ざれており，さまざまな機関で精力的に研究が進められている。 ここでは，膨大な種類のタンパク質群からどのタンパク質同士が相互作用し合うのかをみつけだす網羅的な解析から，どれだけシグナルを伝えることができるのかといったその機能の定量的評価における解析手法について，われわれの独自の技術である"酵母細胞表層提示技術"を利用した解析手法を交えながら解説したい。 また，その工学的応用に伴う医療·創薬への展開という可能性についてもふれてみたい。