立体化学消失を鍵とした効率的不斉全合成

摘要

触媒的不斉合成反応は，光学活性化合物の合成に非常に有効な技術である。 プロキラルな化合物に対し，触媒によりキラリティーを導入する手法は現在最も盛んに行われている触媒的不斉合成反応である（図1-I）。 それに対し，触媒を用いて不斉点を一度"破壊"する手法を触媒的立体化学消失反応（catalytic stereoablative reacption）という。 この立体化学消失の段階がエナンチオ選択的な場合や（図1-II），立体化学消失に引き続き不斉反応が進行し，不斉点が"再生"する場合に（図1-III）触媒的不斉合成反応となる。この反応は一般的な触媒的不斉合成反応と比較し，容易に副生成物を原料として回収できる，ラセミ化合物やメソ化合物から合成できる，多様性のある不斉反応を行うことができる等の特徴がある。本稿では触媒的立体化学消失を経由した不斉反応の最近の実例と，それを利用した天然物合成について紹介する。