表面改質のための薄膜技術

摘要

性質の異なる物質を複合して新しい材料を創り，その性能を向上する技能と技術は新しいものでなく，天平の乾漆仏像や漆器の世界で古くから行われてきた。 FRPと呼ばれている材料はプラスチック製品の中に繊維状の物質を混入することでプラスチックスの弱点をカバーするものである。 旋盤のスローアウェイチップは超硬合金の母材に組成の異なる3層のコーティングが施されている。 タービンブレードは耐熱合金上にCo－Ni－Cr－Al系の合金層を挟んで上層にはジルコニア膜が熱遮蔽材として使われている。これらの材料製品の性能は，さびない，硬い，しなやかで，溶けない，はがれない，などの日常語に還元できるであろう。 日常感覚で材料の性能を議論することは重要であるが，感覚的判断はややもすると全体像を見落としがちになる。 そうかといって，硬度とか付着力の数字を切削性能やしゅう動性能と比較しても両者の間にはさっばり相関性がないことが多い。 耐摩耗性，高温酸化，しゅう動特性，離塑性などの材料特性は，硬さ，内部応力，付着力，微構造，ヤング率，じん性などの基礎物性と密接に結びついているのは当然のことであるが，これらに関する系統的な研究報告は非常に少ない。表面改質を目的とした薄膜技術はややもすると経験的事実が重要視されているのは，アカデミックな研究報告が現実と結びつかないからである。 本稿は製膜プロセスから膜の機械的性質，劣化現象までを，なるべく相互に関連をつけながら解説を試みた。 限られた紙面のなかでの叙述は必ずしも十分でなかった。 論理の詳細な展開は文献を参照されたい。