広拡散型多噴孔燃料弁（千鳥型燃料弁）からのスモーク排出要因解明と燃焼改善

摘要

比較的近海で操業する漁船やプレジャーボートに搭載される推進用のエンジンには,船速に大きく影響する最大出力が求められ続けてきた。 エンジンの出力率は1970年からの20年間で実に2倍以上にも増加し,舶用主機関の進歩は出力との戦いといっても過言ではない。 今日までの機関の高出力化はもっばら正味平均有効圧力の増加による部分が多く,必然的に筒内最高圧力は上昇し続けてきた。 その一方で,当然のことながらランニングコストを左右する燃費への要求も厳しさを増している。 燃費率の低減は2度のオイルショック以来重点的に実施されてきたが,その基本的な方策は今も昔も高週給と高圧噴射である。 すなわち出力と燃費という2大ユーザーニーズを満たすためには,筒内圧力と噴射圧力の増大が不可避であった。 しかし筒内·噴射の両圧力増加はそれぞれに関わる部位の信頼性を低下させるか,もしくは関連部位の強化·補強を必要とした。 世間ではエンジンの高筒内圧力·高噴射圧力化が加速しているが,機関の信頼性·耐久性や出力対コストを考えると,本来エンジンは低い筒内圧力·噴射圧力で燃焼を成立させることが望ましい。 逆に言えば,同等の筒内圧力·噴射圧力条件において高出力·低燃費の燃焼を実現できる技術が必要なのである。 本研究において,広拡散型の多噴孔燃料弁を使用することにより筒内最高圧力と燃費のトレードオフを大幅に改善することができた。 本報では,従来型燃料弁による多噴孔化の効果を含め,広拡散型燃料弁独自の不具合点の抽出とその改善および広拡散型燃料弁の効果について報告する。