高性能·高機能繊維：環境浄化ファイバー～中空糸膜による環境浄化技術

摘要

21世紀は「水の時代」といわれる．これは資源としての貴重性はいうに及ばず，世界的規模での水不足や水環境汚染により水問題が紛争の元凶となりうることを象徴的に表現したものである．2025年には全世界で35億人が水不足に直面するとの予測もある．循環型の資源でありかつ生命にとって貴重な水の浄化，再利用を促進する手段として機能性の繊維素材，とりわけ膜素材は極めて価値の高いものである．本稿では水環境浄化用の中空糸膜技術を中心として解説するが，その前に環境浄化用のファイバー技術について俯瞰して見ることにする．松本の報告を参考にして，環境浄化ファイバーの視点で筆者が修正，加筆してまとめたのが表1である．この表は，水環境，空気（大気）環境および血液の浄化に用いられる各種機能繊維を分離機能別の分類で整理したものである．繊維状物を2次元のシート状に加工して，その繊維間の間隙による篩効果や繊維素材への吸着により目的物を阻止·捕捉し除去するもの，基材そのものに微細な孔が開いた繊維（たとえば，活性炭素繊維）やイオン交換基を有する繊維による吸着機能やイオン交換機能を発現させ分離·浄化をおこなうもの，あろいは微細な孔による師効果や高分子基材への物質の溶解·拡散機構による選択分離機能を有するもの（精密ろ過，限外ろ過，逆浸透などの各種膜素材）などがある．また，微生物を繊維表面に固着させる（生物膜を形成するといわれる）ような担持機能を有する繊維素材は，活性汚泥による下排水の浄化分野に揺動床として用いられていて，フリンジに加工された炭素繊維が特に興味深い材料である．本稿では，まず我が国の上水と下排水の現状を振り返った後に，次いでこのPE中空糸膜の特性と製造技術および新たに開発したフッ素系中空糸膜の概要を紹介する．本稿後半において主題である，これら膜素材の水環境淨化分野への応用事例について紹介する．