礫浜汀線域の土砂環境把握のための基礎的実験的研究

摘要

近年，砂浜海岸汀線域においては.サクシヨン（砂粒 子間に働く表面張力）に連動する種々の土砂環境によつ て潜砂性小型底生生物の分布が規定されていることが明 らかとなつている"~3)。一方，堆積物海岸には砂浜の 他に泥浜や礫浜が存在し.なかでも砂浜と礫浜は一般的 であるとされている4)。瀬戸内海の島嶼部においても礫 相当の粒径で構成された浜が多くみられ，堆積物海岸の 中でも重要な位置を占めると考えられる。しかし，礫浜 に開する知見に関しては決して多いとはいえない砂浜の それよりも更に少なく，生物の生息環境に関する礫浜の 物理的性質を記した知見は殆どない。一般に砂と礫は粒 径によって区分されており.その粒径区分にはいくつか の規格が存在するが，国際土壌学会，日本農学会，日本工業規格，ァメリ力土壌局が定める規格では粒径2 mm 以上を礫と定義している。粒径2mm以上が礫と定義する規格が多いことについては.粒径2 mm以上を境に明 確な物理的性質の違いが存在することが推察される。国 際土壌学会によれば，粒径2 mm以上を礫とする根拠と して，粒子間の間隙に保水ができなくなることを挙げて おり，これは土壌の農地利用における適性の参考として 活用されている5)。このように，礫において粒子間の間 隙に保水ができない性質が特徴であるならば，砂浜に関 する先述のような事象は礫浜において殆ど応用できなく なることも意味している。すなわち.粒子間の間隙が大 きな礫浜海岸汀線域においてはサクシヨンの発生そのも のが弱いと考えられ，砂浜海岸汀線域のようにサクショ ン動態に連動した土砂環境が潜砂性生物の分布を規定す るような激変を生じず，全く異なった土砂環境を構築し ている可能性がある。