2.陸上長距離競技選手におけるACTN3遺伝子およびАСЕ遺伝子多型と競技パフォ一マンスとの関連性

摘要

【目的】陸上長距離競技選手を対象として，ACTN3遺伝子およぴАСЕ遺伝子多型と最大酸素摂取量および競技パフォーマンスとの関連性を検討する. 【方法】対象者は，5000mおよび10000mを専門とする大学陸上長距離選手33名（年齢：20.3±1.2 у,身長：169.6土4.9cm, 体重：56.6 ±4.9kg)であり，対象者の公式べストタイムは， 5000m:14' 27" ±11.26", 10000m: 29' 59" ±25.80"であつた.対象者全員にトレツトミル走を用いた漸進負荷法によつて最大酸素摂取量の測定を行つた（同時に血中乳酸濃度，心拍数も測定）.АСЕおよびACTN3遺伝子多型の解析は，PCRおよびTaqMan probesを用いて行った. 【結果】最大酸素摂取量，血中乳酸濃度，心拍数では，各遺伝子多型間に有意な差は認められなかった.5000mの競技成績について各遺伝子多型間で差を検討したところ， АСЕ遺伝子およびACTN3遺伝子多型ともに有意な差は認められなかった力、10000mの競技成績では，АСЕ遺伝子のDD, ID型力41型に比べ有意に優れていた. 【考察】Tobina(2010)らは，·日本人トップレベルの持久系競技者37名を対象としてАСЕ遺伝子多型と競技パフォーマンスの関連性を検討しており，DD型およびID型はII型と比較して競技パフォーマンスが有意に優れていることを報告している.АСЕ遺伝子のD alleleは，トレーニングによる左心室の肥大に強く関連することが指摘されている.また，DD型を有する者はII型と比較して，運動中のダブルプロダクトが低いこと，さらに，最大酸素摂取量の80%, 60%の運動負荷において血中乳酸濃度が低いことなどが報告されており，II型と比較してDD型は運動中の相対的ストレスが小さい可能性が考えられる.本研究においてもD alleleを有する者が10000mのべストタイムが優れた結果であったことから，日本人の大学陸上長距離選手においてАСЕ遺伝子のD alleleを有することは，トップレベルの選手と同様に競技能力に対してポジティブに働く可能性があることが示唆された.