精神疾患に対する経静脈的神経幹細胞移植療法を用いた 新しい治療法の可能性—神経ネットワーク修復と行動改善促進のための戦略一

摘要

胎児期のアルコール暴露によって，脳を始めとした身体の各臓器の形成不全をきたすことが 知られている.その結果，成長障害，知能障害，顔面奇形などを呈する子供は，胎児性アルコ一ルスペクトラム障害（FASD)という概念にまとめられる.脳神経ネットワークの発達に障 害をきたし脳サイズの減少や無形成が報告されている.しかし，FASD児の中にはそれら神経 ネットワークの障害にもかかわらず，明らかな形態的異常が見つからない症例も多く，こうし た症例においても行動的，感情的，社会的な機能障害を来すことが報告されている.彼らの特 徴として情動不安定，注意欠陥多動性障害，学習障害等の精神症状3'もさることながら，特に 「他者に共感し，心的状況に波長を合わせて社会で良好な関係を築く能力」といわれる社会的認 知力の欠如と，その基盤と考えられるいわゆる「社会脳」の未成熟の問題が指摘されている4). さらに，精神科臨床においても，これら社会認知機能の障害によって適応障害やうつ状態を呈 す症例が急増し重大な社会問題となっている.しかし，社会認知機能障害の病態生理について は不明な点が多く ，根本的な治療法は未だ存在しない.