ヒュームとエディンバラ大学道徳哲学講座

摘要

1745年にエディンバラ大学の道徳哲学講座，正確には精神哲学および道徳哲学講座（Pneumatics and Moral Philosophy）の教授人事が行われた。不世出の哲学者デイヴッド?ヒュームは候補となったものの，自身および関係者の期待もむなしく選考に漏れた。無名のクレグホーンという青年が教授に選ばれた。なぜそのような人事が起こったのか。それは今から振り返ると，極めて意外な醜聞めいた人事であるとしか言いようがない。それは，しかしながら，当時としては，奇異なことではなかったように思われる。世論が大騒ぎしたわけでもない。知的サークルでも，一部の支持者が憤るだけで，むしろヒュームの敗北を当然と見る向きが多かったように思われる。大著『人間本性論』（1739－40）によって，ヒュームは懐疑論者として悪名が高かったからである。