研農会に関する一考察― 農学会前史―

摘要

明治10年代までの時代は，わが国における農業啓蒙家たちの時代であった。津田仙をはじめとする多くの農業啓蒙家たちが，学農社の『農業雑誌』，開農義会の『開農雑報』，初期の『大日本農会報告』などを舞台に活躍した。やがて，明治20年代に入ると，農業啓蒙家の時代から，駒場農学校などを卒業した農学士の時代へと移る。その画期をなすのは，明治20年（1887）11月における農学会の誕生であった。この農学会には前史がある。それは研農会という学術的な農業結社であった。農学会は，研農会の主要メンバーたちによって結成された。研農会は，啓蒙の時代から近代農学の時代への過渡期の農業結社と位置づけることができる。本稿では，これまでの明治農学史研究の中では，まっ たく注目されることのなかった研農会を取り上げ，その機関誌である『研農会誌』を中心に分析を加え，研農会結成の経緯，その性格，主要メンバー等について考察した。