危険不可視社会(畑村洋太郎著)

摘要

回転ドアに挟まれて子供が死亡した事故。花火大会の混雑で死者11 人を出した明石市の歩道橋事故。著者は、近年起こったこれらの事故の原因究明と再発防止策に関して、さまざまな活動·提言をされてきた方である。テレビなど で名前を記憶されている方も多いだろう。本書は、現代日木社会に潜む事故·災害の危険を「人間と人工物の関係性の変化による新たな危険の誕生」、「安全が絶対視されるが故に、一般社会から危険が隠され、かえって潜在的な危険 性が増加しているのではないか」、という二つの視点から掘りドげている。我々の記憶にも残る具体的な「危険」を例に語られる内容は、興味深く、我が身に迫る現代社会の「危険」を知る上で示唆に富む。読者のみなさんは、第5章までを読む限りでは「なぜ『地理』の書評欄に？」と思うかも知れない。しかし、第6 章「子どもから危険を奪う社会」になると、子供の手書き地図を想起させる地理学的内容が登場し、最終章（第8章）の「安全社会の危険」では、地理学と関係の深い話題が次々と登場する。