リレー解説：システムインテグレーションの最前線－《第10回》VRシステムインテグレーション

摘要

バーチャルリアリティ(VR)の研究の目的とは，人間が現実（リアリティ）を認識するメカニズムの本質を理解することであり，またそのような理解のもとにわれわれにとって有用なシステムを構築することであるといえる．人間は五感を通して現実を認識しているのにもかかわらず，VRに関する研究の当初はよく知られているように視覚提示に関するものがほとんどであった．視覚提示の研究者は，コンピュータサイエンスの分野の方が多いせいか，力触覚は大事だといいながらも実際のデバイスの開発を必要とするハプティクスにはなかなか手を出せないでいた．ハプティックスの研究は，1990年にいくつかの先駆的研究が発表された．これらの研究では視覚と触覚を組み合わせたシステムとなっていたのであるが，やがてロボティクスの研究者がこの分野に入ってくると，デバイスの設計や制御に重点を置いた研究が多くなり，逆に視覚との組み合わせを考慮したものは少なくなっていったようである．筆者らは，これまでテレオペレーションを中心にロボットのマニピュルーション等の研究を行ってきたが，人工現実感や複合現実感の研究を始めるにあたり視覚ディスプレイの分野にも多少手を染めることとなった．開発してきたものはとてもシステムインテグレーションの最前線と胸をはれるようなものではないが，筆者らの少ない経験（失敗を含む）から身をもって感じたVRシステムインテグレーションにおいて注意すべきキーポイントを，筆者らのこれまでの研究を時系列的に紹介しながら読者にお伝えできればと思う．