第9章·分子厚みの薄層の物性吸着膜の成長と線張力の効果、原子·分子の表面

摘要

本講座の冒頭·第一章において著者は、章のタイトルに「原子や分子には表面が無い？ 」とする極端な副題を付し、この講座の1～8章で概説する表面·界面の物性が、固相と気相、画相と液相、水と油など、互いに混ざり合わぬ多柏平衡系のように、複数の相の接触によって生成する幾何学的境界面として定義される表面界面に限定したものであることを述べた。 ここで相とは、アボガドロ数ほどの無数の分子の集積によって形成される分子·原子の集合体のことで、構成粒子数を更に一個増やしてもその物性がもはや変化しない程の多数の粒子からなる集合状態を指す。 凝縮相が、自分と自由に混ざり合うことの無い他相と接触して出来る境界面においては、分子や原子の個々の電子構造によって発現する物性以外に、原子·分子間の相互作用の界面における空間的非対称性によって発現する固有の物性が加わる。 1～8章は、これらの物性を系の熱力学的諸芸のバルクに比した過剰量で特徴付けたもので、相分離や相転移·吸着現象など、その束一的な観点で、表面現象を概説して来た。 申すまでもなく、そのような境界条件の下に議論される表面物性は、表面の下に常にそれを支える同種分子からなる無限厚みのバルクの存在を条件とするものであるので、バルクの厚みが減少し表面領域の厚さが分子間力の到達限界に近づくにつれて、表面張力の値は無限厚みのバルタを持つ時より低下して、表面物性を表面張力の関数として同じように取り扱うことが出来なくなる。