マイクロ波加熱とは－多様な応用展開－マイクロ波励起·高温非平衡場の科学－マイクロ波を利用した炭酸ガス抑制製鉄法の基礎

摘要

マイクロ波加熱の利用は1960年代頃から始まり，家庭用電子レンジから，乾燥，破砕，物質合成に至る各種の工業応用が試みられてきた．それらは，約500℃以下の調理や乾燥，有機／無機化学合成等への応用と，さらに高い温度を要する焼結，溶融，固体反応などへの応用に分類される．特に無機材料分野では，1970年代後半からマイクロ波焼結を中心として，数多くの研究が成され，マイクロ波加熱における諸現象とその特異性も指摘されてきた．我々は実験によって，マイクロ波加熱が単なる火炎の代換え手段ではなく，低エネルギーのフォトンが関与したエネルギー移送であり，ミクロ～メゾスケールの非平衡過程を伴うものであることを示した．この非平衡は粒子のマイクロ波に対する選択吸収性によると考えられ，100μmあたり数百度に達する大きな温度勾配が生じている．この非平衡を用いた物材の加工，つまり文明を作り出すということは，人類1万年におよぶ歴史において未だ前例を見ないものである．すなわち，1) 通常の平衡加熱では不可能な高速·高効率な化学反応，2) 平衡酸素分圧の低下によるクリーンな迅速製錬技術，3) 物質の電子構造に直結するエネルギー経路による金属ガラス，高機能材料の生産，など21世紀の産業を創出する大きな可能性を秘めた物質科学の新領域である．