点欠陥とその測定--ボルツマン因子の活躍

摘要

しばしば美しい外形を見せる結晶の内部では原子が同じく美しい規則的配列をしているだろう，という描像は既に十九世紀末にあったが，その実証は1912年のX線回折実験によって与えられたと前に述べた。 しかし，世の中に完璧（integral）なものは存在しない＊という例に洩れず，規則正しい筈の結晶には本質的に，または外部要因的に欠陥が存在することが次第に判明した。 内在的な（intrinsic）欠陥の典型は原子空孔（lattice vacancy）や不純物原子（impurity atom）であり，外部要因型（extrinsic）の代表は転位（dislocation）である。 欠陥は結合の破綻部であって，エネルギー的には不利なのに本質的に存在し得るのは何故かを考えよう。 空孔や不純物原子のように1原子分かその小集合と見られる格子欠陥を点欠陥（point defect）と称し，転位のように線状に伸びたものを線欠取結晶拉界や積層不整のように面状のものを面欠陥，空洞や析出粒子を体積欠陥と分類するが，逐一の説明はせず，原子空孔と不純物と転位のみについて本質的で興味を惹く話題を取り上げよう。 それらはいずれも金属の研究や技術の中から生まれたように見えるが必ずしもそうではない。