金属系バイオマテリアルの研究開発·最前線：Niフリーステンレス鋼

摘要

ニッケル(Ni)フリーステンレス鋼とは高濃度窒素オーステナイト(γ)型ステンレス鋼の1つであり，ステンレス鋼の耐食性向上に必要なNiを排除し，かわりに窒素(N)で耐食性および力学的特性を改善した合金鋼である．種々の高濃度窒素ステンレス鋼はもともと低温，腐食などの過酷な環境下で使用される構造用材料として研究·開発されてきた鋼種であり，比較的高濃度のNiならびに少量のNを含んでいる．しかし，ある濃度以上のNを固溶させることによりNiを添加しなくてもγ相が安定化され，強度および耐食性が飛躍的に向上する．一般に，金属材料の強度を増加させると延性および靭性は低下するが，Nを添加したステンレス鋼では延性および靭性を損なうことなく強度を増加させることができる．すなわち，金属アレルギー性および発癌性が問題視されているNiのかわりに無害なNをステンレス鋼に固溶させることにより，優れた特性を有する新しい生体用金属材料として使用することができる．ちなみに，ステンレス鋼だけでなくNiを含まない生体用Co-Cr-Mo合金，生体用形状記憶合も新しく開発されており，力学的信頼性だけでなく生物学的安全性，省資源化の観点からもNiフリー化に関する研究が精力的に進められている．本稿では，ステンレス鋼へのNの添加方法，生体用として開発されたNiフリーステンレス鋼の特性と問題点について，筆者の研究成果の一部も交えて紹介する．