材料が技術に与えたインパクト－材料研究の将来に向けて

摘要

「金属」創刊75周年記念特集号では，新たな技術ひいては産業の発展の引き金となったような新しい材料の開発のレビューが紹介されると伺っている．筆者は，このような記事が，現在の金属あるいは材料研究の閉塞感を打ち破り，明るい未来を思い描く契機となるものと理解している．しかし，見方を変えると，この企画自体が意識的あるいは無意識に昨今の科学技術政策のトレンド，すなわち「実用化を視野に入れた研究の重点的支援」という流れを反映しているようにも思える．1995年に科学技術基本法が制定され，その後10年余りにわたって科学技術基本計画が実施されている．その結果，大学や研究機関等における研究資金が潤沢となり，さまざまな分野で研究活動が活性化している．一方，研究資金の多くが競争的資金となり，このために，短期的な成果を要求されるプロジェクト研究が増加しつつある．それとともに，公的資金を使うからには，社会への説明責任が必要であるとされ，「実用化」を目指した研究に光が当てられている．その結果，材料研究の分野でも，問題解決に長期の努力を必要とするような基礎研究がおろそかになる傾向が見受けられる．材料研究の将来を考えるうえでは，材料開発ばかりに目を向けるのではなく，学術分野としての材料科学の健全な発展が必須であることを述べたい．本稿の内容は，本特集号の趣旨からは若干外れることを懸念するが，ご寛容願えれば幸いである．