最も確からしい拡散係数を求めて

摘要

東北大学の定年を間近に控えて，長年の研究生活を振り返って見たい。 1960年に東北大学に入学した。 理工系倍増の始まりで，東北大学ではこの年に金属材料工学科が設置された。 卒業研究にはMITから帰国した平野賢一先生の研究室に入った。 新設の金属物理学講座で何もないところからのス夕ートだったが，新鮮な気分に溢れていた。当時は「点欠陥」研究の勃興期で，Auなどを高温から急冷することにより，空孔を凍結して，空孔の形成エネルギーを得る研究が盛んであった。 平野教授はMITでFeやCo合金の拡散研究を行って，磁気変態によって拡散の活性化エネルギーに変化があることを見出していた。 そこで，磁気変態上下の温度から急冷すれば，空孔の形成エネルギーの差異がわかるだろうということだった。 これが私の卒業研究から大学院時代の研究テーマとなったが，空孔濃度よりも不純物濃度が桁違いに商いことなどの理由で，成果は全く上がらなかった。 実験装置の自作や試料の取扱など，多くの経験を積んだのもこの頃である。 おかげで，試料の純度には絶えず注意するようになった。